インド所得税法2025:旧法の条番号はどこへ行ったか 日本企業がよく使う40条の新旧対照表
結論:インドの所得税は、2026年4月1日以降に得た所得から新法(Income-tax Act, 2025)で課税されます。条番号はほぼ総入れ替えになり、給与の源泉徴収は第192条から第392条へ、請負・専門家報酬・非居住者への支払の源泉徴収(旧第194C条・第194J条・第195条など)は第393条の表へ集約されました。 ただし、2026年3月31日以前の年度に関する査定や不服申立ては、今後も旧法の番号のまま進みます。社内文書の条番号を一斉に置き換えてはいけません。
本記事は2026年9月23日時点の法令に基づきます。新法は2026年財政法による改正を反映した版で確認し、新旧の対応関係は、インド所得税局が公開している公式の対照データで照合しました。
新旧対照表:日本企業がよく使う40条
新旧の対応は、すべて所得税局の公式対照データによります。新法の条が複数あるものは、旧条の内容が分かれて移ったことを示します。
参考:ITD(インド所得税局)|新旧対照ユーティリティ(1961年法 vis-a-vis 2025年法)(旧条・新条のどちらからでも対応する条を引けます)
基本概念・国際課税
| 主題 | 旧法(1961年) | 新法(2025年) |
|---|---|---|
| 課税年度の定義 | 第3条 | 第3条(「tax year」に変更) |
| 課税所得の範囲 | 第5条 | 第5条 |
| 居住者判定 | 第6条 | 第6条 |
| インド源泉とみなす所得(技術料・ロイヤルティを含む) | 第9条 | 第9条 |
| 本店経費の控除(非居住者) | 第44C条 | 第60条 |
| 非居住者のロイヤルティ・技術料の所得計算 | 第44DA条 | 第59条、第66条 |
| 租税条約 | 第90条 | 第159条 |
| 外国会社の配当・ロイヤルティ・技術料の税率 | 第115A条 | 第207条(定義は第2条) |
法人の税率・欠損金
| 主題 | 旧法 | 新法 |
|---|---|---|
| 国内会社の軽減税率 | 第115BAA条 | 第200条(適用条件は第205条) |
| 新設製造会社の軽減税率 | 第115BAB条 | 第201条(適用条件は第205条) |
| 最低代替税(MAT) | 第115JB条 | 第206条(定義は第2条) |
| 事業損失の繰越し | 第72条 | 第112条 |
| 合併・分割時の繰越欠損 | 第72A条 | 第116条 |
移転価格
| 主題 | 旧法 | 新法 |
|---|---|---|
| 独立企業間価格での所得計算 | 第92条 | 第161条 |
| 国際取引の意義 | 第92B条 | 第163条 |
| 独立企業間価格の算定 | 第92C条 | 第165条 |
| 移転価格調査官への付託 | 第92CA条 | 第166条(制度設計の権限は第532条) |
| 文書の保存 | 第92D条 | 第171条 |
| 会計士報告書 | 第92E条 | 第172条 |
源泉徴収(TDS)
| 主題 | 旧法 | 新法 |
|---|---|---|
| 給与 | 第192条 | 第392条(用語の解釈は第402条) |
| 請負代金 | 第194C条 | 第393条(1)の表 6(i)(同上) |
| 専門家報酬・技術料 | 第194J条 | 第393条(1)の表 6(iii)(同上) |
| 非居住者への支払 | 第195条 | 第393条(2)の表 17 ほか(証明書は第395条、報告は第397条) |
| 源泉徴収漏れの効果 | 第201条 | 第398条(定義は第2条) |
| PAN未提出時の取扱い | 第206AA条 | 第397条 |
申告・事前納税・利息
| 主題 | 旧法 | 新法 |
|---|---|---|
| PAN | 第139A条 | 第262条(定義は第2条) |
| 申告書の提出 | 第139条 | 第263条ほか |
| 事前納税の義務 | 第208条 | 第404条 |
| 事前納税の分割期限 | 第211条 | 第408条(当局の命令による納付は第407条) |
| 申告遅延の利息 | 第234A条 | 第423条 |
| 事前納税の不足利息 | 第234B条 | 第424条 |
| 事前納税の繰延利息 | 第234C条 | 第425条 |
査定・争訟
| 主題 | 旧法 | 新法 |
|---|---|---|
| 査定 | 第143条 | 第270条 |
| フェースレス査定 | 第144B条 | 第273条 |
| 紛争解決パネル(DRP) | 第144C条 | 第275条(制度設計の権限は第532条) |
| 査定の完了期限 | 第153条 | 第286条 |
| 第一審の不服申立て | 第246A条 | 第357条 |
| 審判所(ITAT)への上訴 | 第253条 | 第362条(制度設計の権限は第532条) |
| 高裁への上訴 | 第260A条 | 第365条 |
| 最高裁への上訴 | 第261条 | 第367条 |
この記事での呼び方
FAQ=直接税中央委員会(CBDT)が公開したFAQs on Interplay and Transition to the Income-tax Act, 2025(全99頁)。新法への移行と、新旧2つの法律が並走する期間の取扱いについての公式の質疑応答です。
対照データ=所得税局の新旧対照ユーティリティが公開している、1961年法と2025年法の条の対応データ(Acts 1,368件、取得日 2026年9月17日)。
源泉徴収報告書=源泉徴収について四半期ごとに提出する報告書(旧Form 24Q・26Q・27Q、新Form 138・140・144)。
新法・旧法=Income-tax Act, 2025(2025年法)と Income-tax Act, 1961(1961年法)。
旧番号のまま書くと「実在する別の条」を指してしまう
現時点の新法は第1条から第536条までの条に第354A条を加えた合計537条からなります。枝番(194J、234B のような英字付きの番号)の条は、2026年財政法が挿入した第354A条(登録非営利組織の合併)の1条だけです。そのため、英字付きの旧番号は新法に同じ番号が存在せず、誤りに気づけます。
危ないのは数字だけの旧番号です。新法にも同じ番号の条があり、その多くはまったく別の内容になっています(第5条・第6条・第9条のように同じ主題の条もあります)。条番号が実在するので、文書を読んだだけでは誤りに見えません。
| 旧番号(旧法での内容) | 新法で同じ番号の条 |
|---|---|
| 第192条(給与の源泉徴収) | 第192条 Tax in case of block assessment of search cases(捜索事案のブロック査定への課税) |
| 第195条(非居住者への支払の源泉徴収) | 第195条 Tax on income referred to in sections 102 to 106(第102条から第106条に定める所得への課税) |
| 第201条(源泉徴収漏れの効果) | 第201条 Tax on income of new manufacturing domestic companies(新設の製造業国内会社の所得への課税) |
| 第208条(事前納税の義務) | 第208条 Tax on income from units purchased in foreign currency or capital gains arising from their transfer(外貨で購入したユニットからの所得またはその譲渡によるキャピタルゲインへの課税) |
| 第211条(事前納税の分割期限) | 第211条 Tax on non-resident sportsmen or sports associations(非居住者であるスポーツ選手・スポーツ団体への課税) |
| 第143条(査定) | 第143条 Special provisions in respect of certain undertakings in North-Eastern States(北東部州の特定事業に関する特別規定) |
| 第153条(査定の完了期限) | 第153条 Deduction for interest on deposits(預金利息の控除) |
| 第90条(租税条約) | 第90条 Meaning of “adjusted”, “cost of improvement” and “cost of acquisition”(「調整後」「改良費」「取得価額」の意義) |
| 第92条(移転価格) | 第92条 Income from other sources(その他の源泉からの所得) |
参考:ITD(インド所得税局)|The Income-tax Act, 2025 (Act No. 30 of 2025)(2026年財政法による改正反映版)(この表の新法の条の見出しは、同ページの条文で確認できます)
契約書の税務条項、社内規程、グループ内の業務マニュアルには「Section 195」と書かれていることがあります。計上と支払の早い方が2026年4月1日以降になる支払(新法が適用される支払)について、その番号を新法の条番号として読むと、別の条を指してしまいます。
条番号以外に変わったこと
1. 「前年度」と「査定年度」がなくなり「tax year」に一本化
旧法は、所得を得た年を previous year(前年度)、それを査定する翌年を assessment year(査定年度、AY)と呼んでいました。新法は assessment year を廃止し、所得を得た年を tax year と呼びます(第3条)。FAQは、移行による年度の欠落も重複もないと説明しています。
| 所得の期間 | 適用される法律 | 呼び方 |
|---|---|---|
| 2025年4月1日〜2026年3月31日 | 1961年法 | AY 2026-27 |
| 2026年4月1日〜2027年3月31日 | 2025年法 | Tax Year 2026-27 |
参考:CBDT(直接税中央委員会)|FAQs on Interplay and Transition to the Income-tax Act, 2025(Q1.9〜Q1.12)
同じ「2026-27」が、旧法では査定年度、新法では所得の年度を指します。社内の資料で年度を書くときは、どちらの法律の呼び方かを併記するのが安全です。会計年度の変更は不要です。
2. 源泉徴収の条は2つに集約され、表の番号で特定する
旧法の第192条から第194T条までの源泉徴収の規定は、新法では第392条(給与)と第393条(給与以外)にまとめられました。第393条は、支払先が居住者の場合(第1項)、非居住者の場合(第2項)、いずれの場合にも当たるもの(第3項)の3つの表の各行で、所得の種類、支払者、税率、基準額(非居住者の表には無し)を定めます。
FAQは、税率と基準額は旧法のまま維持したと説明しています(概説部分では「おおむね同じ」との表現です)。主に変わったのは示し方です。たとえば請負代金は、第393条(1)の表 6(i) に当たります。
3. 様式と規則の番号も変わった
所得税規則も2026年規則に置き換わりました。源泉徴収税の納付期限を定める規則は、旧規則30から新規則218へ移っています。期限そのものは変わっていません。ただし2026年10月1日からは、居住者である個人またはヒンドゥー不分割家族(HUF)が非居住者から不動産を買うときに差し引いた源泉徴収税に限り、差し引いた月の末日から30日以内の納付に改められます(2026年9月22日の所得税規則改正)。四半期の源泉徴収報告書は、給与分が旧Form 24Qから新Form 138へ、非居住者への支払分が旧Form 27Qから新Form 144へ、それ以外が旧Form 26Qから新Form 140へ変わりました。
旧法はいつまで使うのか
新法第536条が1961年法を廃止し、あわせて経過措置を定めています。要点は次の3つです。
- 過去の年度の手続は旧法で進む。第536条(2)(c)は、施行日に係属中の手続だけでなく、2026年4月1日以降に新たに始まる手続であっても、対象の年度が2026年4月1日より前に始まっていれば旧法を適用すると定めています。対象には通知、査定、再査定、更正、罰則、不服申立てが含まれます。
- 旧法下の通達・告示は原則として生き続ける。第536条(2)(j)により、新法と矛盾しない限り、新法の対応する規定の下で出されたものとみなされます。FAQは、旧第194C条の「work」の意義を明らかにした通達が新第393条にも引き続き適用される例を挙げています。
- 旧法下の選択や届出は引き継がれる。第536条(2)(f)により、新法の対応する規定の下でなされたものとみなされます。最低代替税の税額控除の繰越しも、第536条(2)(l)により新法第206条の下で続きます。
FAQは、両法が当面並走すると明言しています。2026年7月に提出する申告(AY 2026-27)は旧法の様式を使う一方、2026年6月から納める Tax Year 2026-27 の事前納税は新法によります。過去の年度の査定と不服申立ては、最終的に決着するまで旧法で進みます。
源泉徴収は「計上と支払のどちらか早い日」で決まる
年度をまたぐ取引について、FAQは次の基準を示しています。
- 計上と支払のどちらか早い日が2026年3月31日以前なら、旧法を適用する。
- どちらか早い日が2026年4月1日以降なら、新法第393条を適用する。
3月に帳簿へ計上し4月に支払った専門家報酬は、旧法によります。3月に前払いし4月に計上した場合も旧法です。毎月支払う継続契約では、計上と支払の早い方が3月31日までの分は旧法、4月1日以降の分は新法になります。FAQは、新法の施行だけを理由に契約を改定する必要はないとしています。
注意が要るのは報告です。FAQによれば、2026年4月1日以降の取引について旧条番号(194C、194J など)を源泉徴収報告書に記載すると、システム上の検証エラーになることがあります。
社内で点検する箇所
- 源泉徴収の設定。会計システムと給与システムの条番号、報告様式を新法に合わせたか。FAQは、システムの更新が必要だと明言しています。
- 契約書の税務条項。「Section 195」「Section 194J」などの旧番号を引く条項は、計上と支払の早い方が2026年4月1日以降になる支払について、新法の対応する条(第393条など)への読み替えが要ります。一般条項法(General Clauses Act, 1897)第8条(1)は、中央法が従前の法令の規定を廃止して再制定した場合(修正を加えた場合を含む)の参照の読み方を定めています。他の法令や文書(instrument)の中の旧規定への参照は、別段の意図が表れない限り、再制定された規定への参照と解する、というものです。FAQは新法の施行だけを理由に契約を改定する必要はないとしていますが、どの条に読み替えたかは社内の解釈メモに残しておく方が安全です。
- 社内文書の年度表記。「AY」「FY」「Tax Year」のどれで書いているか。2026-27 は旧法と新法で指す期間が違います。
- 過去年度の案件は置き換えない。係属中の査定、不服申立て、移転価格の調査に関する書面は、旧法の条番号のままにします。
- 数字だけの旧番号を検索する。192、195、201、208、211、143、153、90、92 は、新法に同じ番号の別の条があります。
確認できなかったこと
- 所得税局の対照データは、第2条の定義と第10条の非課税所得を除き、条の単位です。本記事で扱った条について項や号の単位の対応は示されていないため、条の単位にとどめました。第393条の表の行番号は、新法の条文で個別に確認したものだけを記載しています。
- 新法で実質的な内容が変わった箇所の網羅的な洗い出しは、本記事の範囲外です。FAQは源泉徴収の税率と基準額について「変更はない」「おおむね同じ」と説明していますが、個別の規定については条文の確認が必要です。
根拠とした一次資料
| 資料 | 発行者 | 確認した内容 |
|---|---|---|
| Income-tax Act, 2025(2026年財政法による改正反映版)(2026年8月25日付の統合版。2026年9月17日に最新版であることを確認) | インド所得税局 | 第3条、第192条、第392条、第393条、第536条ほか、本記事で引いた新法の条の見出しと本文 |
| 新旧対照ユーティリティの対照データ(Acts 1,368件、取得日 2026年9月17日) | インド所得税局 | 旧法と新法の条の対応関係、旧法の条の見出し |
| FAQs on Interplay and Transition to the Income-tax Act, 2025(全99頁、取得日 2026年9月17日) | 直接税中央委員会 | 年度の呼び方、並走期間、源泉徴収の適用基準、納付期限、報告様式 |
| Form Mapping Guide – Income-tax Act, 1961 to Income-tax Act, 2025(取得日 2026年9月17日) | 所得税局 e-Filing | 様式番号の新旧対応 |
| Income-tax (Fifth Amendment) Rules, 2026(G.S.R. 830(E))(官報 2026年9月22日、取得日 2026年9月23日) | インド財務省(直接税中央委員会) | 規則218の納付期限の改正(2026年10月1日施行) |
更新履歴
- 2026年9月23日 初版
本記事は一般的な法情報の解説であり、個別の案件についての法的助言・税務助言ではありません。